スターアルバイト烈伝
井上三太
井上三太
PROFILE
1968年、フランス・パリ生まれ。
代表作に「TOKYO TRIBE2」(祥伝社「Boon」に連載)、「隣人13号」(2004年映画化)、「TOKYO GRAFFITI」(集英社「週刊ヤングジャンプ」に連載)など。漫画以外 にもウェアブランド「SANTASTIC!WEAR」を手がけ、SHOP 「SANTASTIC!」を渋谷に構え、漫画とともにBボーイたちから絶大な支持を受けている。
VIDEO MESSAGE
井上三太からバイトルユーザーへの熱いメッセージはこちら。
Windows Media Playerは、動画、音声を再生するマルチメディアプレーヤーです。
WAV, AVI, QuickTime ムービー、 Real Video 、ASF(NetShow)、MPEG形式、MP3で提供されるデータを再生できます。お持ちでない方は、下のバナーよりダウンロードできます。
windows media player
バックナンバー
井上三太 Santa Inoue  クビになった経験数知れず!? 人気漫画家・井上三太さんが青春のアルバイト体験を赤裸々に告白!!あの有名人のアルバイトにまつわるさまざまな話をお送りするこのコーナー。 毎回、下積み時代の隠れた努力や、おもしろいエピソードをお届けします。
●面白エピソード満載!? 高校生時代のアルバイト体験は?

アルバイトはたくさんやりましたね。最初は高校生のときで、近所のコンビニで1年くらいやりました。バイトできるようなところが、近所ではそこしかなかったんですよね。

 

あるとき、ベロベロに酔ってる女性客がきて、フラフラしながら商品を棚から落としていくんですよ。店長が注意したら、突然そのお客からキスを求められたみたいで、ボクとかレジで見てるのに、キスしてましたねえ(笑)。なんかシュールだったなあ。初期の森田芳光の映画みたいだった。あと、一緒にバイトしてた娘に恋をして、「まだ誰も好きになれない」って言われて落ち込んだ思い出があるなあ。その体験をベースにマンガ描きましたよ。そして「少年ジャンプ」で月例賞とりました(笑)。

●あえて選んだ肉体労働系バイト、そのワケは?

 そのあと一人暮らしを始めて、とにかく家賃を稼がないといけないから、給料がいい仕事をしようと思ってマクドナルドの夜のメンテナンス(閉店後に店を掃除するバイト)を始めました。最初の一週間は仕事を教えてくれる人がいるんですけど、そのあとは一人で夜中に掃除するんですよ。ラジカセで好きな音楽聴きながら、なんかブルース・スプリングスティーン気取りでやってました(笑)。

 

 毎回最後に店長がチェックするんですけど、なんかあれこれいわれて、僕も若かったからちょっとムッとしちゃったんです。すべきじゃないんだけど。「反抗的な態度だ」ってすぐにクビになっちゃった。

 それで次は居酒屋でバイトしました。オシャレな所でバイトしても良かったんですけど、家賃払えないとおしまいっていう感じが“長渕イズム”っていうか(笑)、油と汗でギトギトになる仕事がいいかなって思ってたんですね。楽しいよりは、ちょっとキツくてもがんばろうって思えるような仕事が。

●印象深い思い出が多い居酒屋でのアルバイト

 そこの居酒屋はファミリーみたいな感じでしたね。なんかバイトがブーたれてると社員が「悩みあんなら言えよ」って宴会室に連れてったりするんですよ。バイトしに来てるだけなのに、そんな“あったかさ”ちょっとヤダな、なんて思ったり(笑)。なぜかケツを触ってくるオッサン客とかいるんだよね。そのことにイライラして下げた皿を流しにガチャーンって戻したりしてると、洗い場のオバサンが「どうしたの三太くん?」なんて言ってきたり(笑)。

 

 明け方に店が終わってから、友達の車に乗ってガンガンにハウンドドッグ聴きながら江ノ島に行って、車ん中でそのまま少し寝て、海で遊んだりしてたなあ。あの頃は価値観が合おうが合うまいが関係なしに、よく人と遊んでたんですよね。なぜかハウンドドッグもいい曲に聴こえたりして(笑)。

 

 本社からオッサンの社員が来て、そのオッサンがむちゃくちゃボクを気に入ってくれて、スナックみたいな夜の店に連れていってくれるんですよ。それで、なぜかチークタイムに「自分の彼女とも踊れ」とか言うワケ。しょうがないからそのおばちゃんと踊って、「ワーなんかオトナっぽい」とか思ったりして(笑)。ところがある時からギクシャクしちゃったんですよね。何があったか忘れちゃったけど。結局2年くらい働いてたんですけど、それが原因で辞めましたね。

●バイトを辞める時の寂しい体験とは?

居酒屋のバイトではけっこうみんなと仲良くしていて、特に仲のよかった友達グループがいたんだけど、辞める時に「バイト辞めても仲良くしような」って言ったんですよ。そうしたら「何を心配してんだよ」「三太がそんなコト心配すんな、バカだなあ」なんて言われたんだけど、そのあと全然遊ばないもんだね(笑)。電話もかかってこないし。そういうコトでちょいちょい人間関係の寂しさを覚えていくんですよね。

●レンタルビデオ屋をクビになり、さらなる寂しい体験が!?

 それからは3店連続でレンタルビデオ屋でバイトしましたけど、3店とも全部クビになりましたね。

 

 最初の店では勝手にCD借りたのがバレてクビになりました。そこでは店員が無断でビデオとかCDを借りたりしていたんだけど、ある日店長に呼ばれて、「オマエ、無断でやってるだろ、訴えてもいいんだぞ」って。みんなもやってんのにって思ったけど、それは僕も言わないじゃない。その時にみんなが発起して「おかしいですよ、店長!三太だけ!」って守ってくれると思ったの。

でもさ、そうはならないんだよね(笑)。バイト同士で仲良かったけど「三太がクビになるんならオレたちも一斉にやめちゃおうぜ!」なんて、そんなあったかいコトにならないんだよね。実際は、みんな黙ってバイト続けるんだよな。まあ、新しいバイトを探すのも大変だからね。その晩に泣いた思い出がある(笑)。

でもそういう体験が「TOKYO TRIBE2」って作品に繋がっていくんですよね。漫画の中に理想郷を求めていったんじゃないかな。仲間とか、そんなあったかいコトがあればいいのにねって。

 

 僕は映画が好きだったから次もレンタルビデオ屋でバイトしたんだけど、そこでは人と全然なじめなかったですね。“我関せず”って態度で働いていたら、ある日突然「クビ」っていわれました。「やる気がみられないから」とか、「人となじまないから」とかいわれて。これといった理由がなかったね。
バイト最後の日、ボクが店を出た瞬間に、あるバイトが「ああ、ホッとした」って言ったらしいです。その頃ボクは早くマンガ家になりたくってしかたなかったから、「こんなバイトは仮の場所だ」って思ってたんだよね。なんかそういう気持ちが態度に出てたんだと思う。そういうのって人に伝わるんじゃないかな。

 

 次のレンタルビデオ屋でバイトしている時に、小学館のまんが新人大賞を取りました。バイトの休憩中に、編集部の担当者に電話かけたら受賞を教えられて。でも、すぐに連載を持てるわけじゃないので、まだバイトは続けていたんですけどね。

●積み重ねていった先の景色を見て欲しい!

 バイトの経験はしておいてよかったですね。夜にあてもなくドライブする友達ができたり、そんなに趣味の合わない人ともカラオケをしたり、みんなで海に遊びに行ったり、20代前半の若者っぽいことができてよかったです。女の子とも出会えるし、イヤなことも経験できるし。いまここでサザンの「YaYa(あの時代(とき)を忘れない)」をかけて欲しいね(笑)。そういった積み重ねが今の仕事にも役に立ってますし。

 

 「目標もなくバイトをしている」ってことを、まるでよくないことのように言う人がいるけど、誰でも明確に夢とか目標がピシっとあるワケじゃないし、どっちかといえばそういうものを持っている人のほうが珍しい、というか幸せだと思うんですよ。

「努力が足りないから夢がみつからない」っていうわけじゃないじゃないですか。でも、どの道を通ったって仕事ってキツいもんだから、だったら好きなことでキツい方がいいかなと思いますね。音楽が好きならミュージシャンにはなれなくても、例えばマネージャーでもレーベルでもクラブとかでもいいし、音楽の近くにいることはできる。

「継続は力なり」って言葉があるように、続けることはしんどい作業だと思うけど、すぐにやめちゃうと積み重なっていかない。その先には、苦しいけど楽しい景色があると僕は思うんで、その景色を見て欲しいですね。最後は人生を語っちゃいましたけど(笑)。

 
バイトル情報局