僕、沖縄時代にものすごい所でバイトしてたことがあるんですよ。「軍歌酒場 大本営」っていう名前の店だったんですけど、そこでウエーターをやっていたんです。水兵さんの格好して(笑)。
今で言う“コスプレ”なんですけどね、そこの従業員はみんな兵隊さんの格好をしてるんです。ビールのことを「魚雷」って呼んだり、ウイスキーのオールドを「爆弾」って呼んでたり。そのお店の面接に行った時、「じゃ、キミは背が高いから海軍ね」なんて言われて。
まず最初は、お客さんに対する敬礼の仕方を習いました。知ってます? 陸軍と海軍は敬礼のやり方が違うんですよ。海軍は甲板の上の狭い場所で敬礼するから、ひじを下に向けたままコンパクトに敬礼するんです。陸軍はひじを横に出すんですけどね。
お店に来るお客さん…そこでは「上官」って言うんですけどね(笑)、その上官たちはやっぱり年のいってる人が多かったです。上官が入店してくると、直立不動で「いらっしゃいませ!」と敬礼、上官も敬礼を返してくれるんですけど、僕らは上官が敬礼を下ろすまで敬礼してなきゃいけないんです。だからマニアな人とは1分くらい敬礼して向かい合ってたりしました。そのうち「うむっ!」って上官が満足そうに敬礼を下げてくれる。そうすると僕も敬礼を下げられるんです。
慣れてきたら僕も楽しくなってきて、ポケットに小銭を忍ばせておくようにしたんです。そうすると敬礼した瞬間に“ジャッ”っていう硬い音がして、「決まった~!」みたいな気分になれるんです(笑)。ホントに楽しんでできたバイトですね。
その頃の体験があるんで、僕、軍歌を歌えるんですよ。上官たちが戦友と肩組んで歌っていたりしてましたから。あと、大きな音でする手拍子! 上官が一生懸命歌っているワケですから、手加減なんてできないじゃないですか。だから手の叩き過ぎで手相の線がひび割れて、血がにじんできたりしました(笑)。いやぁ、一生懸命でしたよ。
あと、戦時中をモチーフにしたお店だったせいか、怪奇現象のようなこともよくありました。誰もいないのに「すいません」っていう声がはっきり聞こえたり、いるはずのない場所を人が横切ったり。みんなで並んで写真を撮影したら、後ろに1人多く写ってたりもしました。僕はあんまり怖いとは思わなかったですよね。ま、これだけ兵隊さんの格好したり、戦争中の装備とか集めてあれば、「そりゃ出るわな」って(笑)。
ここの酒場は1年近くやってたかなぁ。カラオケのDJとかも任されるようになったんですよ。DJといっても、カラオケのレコードを取り替えたりするだけなんですけど。でも、曲の間奏に盛り上げるためのセリフを挟み込んでみたりして。それがスパッって決まると気持ちよかったなぁ(笑)。
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